SNSやネット掲示板、園芸Q&Aサイトを定点観測すると、毎年10月頃に同じ嘆きの声が数千件規模で投稿されます。「畑一面が青々とした巨大なジャングルになったのに、掘ったら芋が一本も入っていない」「葉っぱの勢いが凄すぎて隣の区画まで侵食してしまった」。これこそが栽培者を絶望に突き落とすつるぼけ(蔓ボケ)の典型例です。
園芸店で販売されている一般的な野菜用培養土や、前作でトマトやナスを育てて元肥が残っている畑にサツマイモを植えると、ほぼ確実にこのトラップに捕まります。サツマイモは荒れ地でも生存できるよう、根粒菌に似た内生窒素固定細菌(エンドファイト)と共生し、大気中の窒素を取り込む特殊な能力を備えています。土壌中に過剰なチッソ(N)成分が存在すると、植物体は「過酷な環境に備えて根にデンプンを蓄える」生存本能を放棄し、地上の茎葉を伸ばす栄養成長ばかりにエネルギーを消費してしまうのです。
つるぼけ対策と追肥の注意点として、前作の肥料分が残っている土壌では完全無肥料栽培を基本姿勢とすべきです。どうしても土壌が痩せすぎている場合に限り、チッソを極力排除し、リン酸(P)とカリウム(K)を中心とした配合比(例:チッソ3・リン酸7・カリ10など)のサツマイモ専用肥料をわずかに施す程度にとどめます。栽培途中の追肥はつるぼけの引き金になるため、原則として一切不要です。
もし夏場につるの勢いが制御不能になった場合は、伸びすぎたつるを持ち上げて地面から出た不定根を引き剥がす「つる返し」を実施し、余分な節からの養分吸収を物理的に遮断する緊急措置を講じます。