人参の代名詞とも言えるのがβ-カロテン(Beta-Carotene)だ。体内で必要に応じてビタミンA(Vitamin A)へと変換されるこの強力な抗酸化物質は、脂溶性という決定的な特徴を持つ。水には溶けず、油に溶けやすい。生のままかじった場合の生体利用率はわずか10パーセント前後に過ぎないが、植物油を使ってしっかりと加熱調理を施すだけで、その吸収率は実に数倍から60パーセント近くにまで跳ね上がる。
決定的なポイントは「皮を剥かないこと」にある。植物学的にニンジン(Daucus carota subsp. sativus)の外側を覆っているのは極めて薄い表皮であり、私たちが普段ピーラーで削り落としている外層部分こそ、中心部の約2.5倍ものβ-カロテンが密集する特等席なのだ。表面の汚れをタワシで軽く水洗いし、オリーブオイルやごま油を引いたフライパンで手早く炒める。これだけで、細胞壁が適度に破壊され、油の微粒子に溶け出したカロテンが小腸からスムーズに吸収されていく。無駄な廃棄をゼロにしつつ、栄養摂取効率を極限まで高める合理的アプローチだ。