「罪なやつさ Ah PACIFIC」というあまりにも有名な歌い出しは、一度聴いたら耳から離れない強烈なインパクトを持っています。作詞を手がけたのは、数々の歌謡曲や特撮ソング、フォークソングで名フレーズを世に送り出してきた巨匠・山川啓介です。
矢沢永吉と山川啓介のタッグは、単なる商業的な組み合わせではありませんでした。矢沢のデモテープからあふれ出るメロディの哀愁と男の色気を敏感に察知した山川は、広告代理店から提示されたCM用コピー「時間よ、止まれ」というフレーズを、男女の切ないひと夏の情景へと見事に昇華させました。
歌詞が描くのは、燃え上がる情熱と、いつか終わりが来ることを知っている大人の諦念です。「罪なやつさ」と呼びかけられる「PACIFIC(太平洋)」は、眩しい日差しと青い海であると同時に、恋人を惑わし、理性を奪っていく南国の魔力そのものを擬人化した表現です。幻惑的な陽炎の中で、愛しい相手を抱きしめながら「この幸せな瞬間が永遠に続いてほしい」と願う切実な男心。山川啓介の選び抜かれた言葉と矢沢のハスキーでウェットなボーカルが重なり合うことで、聴く者の脳裏に映画のワンシーンのような情景が浮かび上がります。