出産後に胎盤を口にする最大の動機として挙げられるのが、「産後肥立ちの促進」や「ホルモンバランスの回復」という言説です。妊娠中に胎児を育んできた胎盤には、エストロゲンやプロゲステロンをはじめとする各種ホルモン、鉄分、タンパク質などの栄養素が凝縮されていると考えられており、これを摂取することで産後うつの予防や母乳分泌の促進、疲労回復が期待できると信じられてきました。
また、胎盤食の根拠として頻繁に引用されるのが哺乳動物の本能的な行動です。草食動物を含め、有胎盤類のほとんどのメスは出産直後に胎盤を食べ尽くします。これには「血の匂いを消して外敵から生まれたばかりの我が子を守るため」という捕食回避説と、「分娩で消耗した母体の栄養補給や痛みの緩和」という生理的適応説の双方が存在します。
しかし、安全な住環境と豊富な食糧供給が確立された現代の人間において、野生動物と同じ本能行動をそのまま当てはめることには疑問符がつきます。多くの専門家は、ヒトにおける胎盤食のメリットとして語られる内容のほとんどが、古くからの民間伝承や体験者の主観的な感想に基づいたものであると指摘しています。