これほど高い安全効果を持ちながら、ホームドアの設置が進まない理由には複数の深刻なボトルネックが存在します。最大の障壁となっているのが、莫大な導入費用とホーム自体の構造補強コストです。
一般的な可動式ホーム柵を整備する場合、ドア本体の機器費用だけでなく、ホーム下の補強工事、列車を定位置にピタリと停止させる自動列車運転支援システム(TASC)の導入、信号設備の改修などが必要になります。これらを合計すると、1駅(2面4線規模)あたり数十億円の費用が発生することも珍しくありません。
もう一つの決定的な技術的要因が、相互直通運転を行う路線間での「ドア位置の違い」です。首都圏や関西圏では1つの路線に複数社の車両が乗り入れ、特急車両(2扉)、一般通勤車(3扉または4扉)などが混在して同じホームを発着します。開口部の位置が固定された従来型ホームドアでは、すべての車両の乗降口に合わせることが物理的に不可能です。
加えて、高度経済成長期に建設された古い駅ホームは重量物の積載を想定して設計されておらず、重さ数十トンにも達するホームドアを載せるためにはホーム自体の基礎から造り直す大規模な土木工事を伴うケースがあります。こうした複合的な課題が、全駅展開への足枷となってきました。