インターネット上の掲示板やSNSでは、昆虫に関する誤情報がまことしやかに拡散されがちです。特に「派手な色や突起を持つ虫はすべて有毒である」という言説は、進化生物学的な観点から見ても決定的な誤解を含んでいます。
生物界における色彩戦略には、自らが毒を持つことを示す「警戒色(アポセマティズム)」のほかに、毒を持たない無害な生物が有毒生物に外見を似せるベイツ型擬態が存在します。ツマグロヒョウモンの幼虫がまとう赤い突起と黒のコントラストはまさにこの擬態の好例であり、鳥類などの視覚捕食者に対して「自分は不味くて危険な獲物だ」と錯覚させる高度な生存戦略です。このトゲは指先で触れてもゴムのようにしなやかに曲がり、皮膚に刺さる硬さすらありません。
もうひとつの危険な盲点は、「毛が生えていない芋虫=100%安全」という誤認です。確かに多くの芋虫(蝶や蛾の幼虫のうち無毛のもの)は人体に有害な毒管を持ちませんが、幼虫自体に毒はなくとも、幼虫が摂取した植物の毒(強心配糖体やアルカロイド)を体内に蓄積しているケースがあります。また、触れたことによる直接的な刺症被害はなくとも、害虫の排泄物や分泌液がアレルギー反応を引き起こすリスクはゼロではありません。いかなる昆虫であっても、「素手で握りつぶす」「口や粘膜の近くに触れた手を持っていく」といった行為は避けるのが衛生管理上の鉄則です。