映画『海街diary』の撮影が本格的に始まった2014年春、広瀬すずさんの当時の年齢は15歳(中学3年生から高校1年生に進学する過渡期)でした。雑誌『Seventeen』の専属モデルとしてティーン層から絶大な支持を集め始めていたものの、女優としてのキャリアはまだスタート地点に立ったばかりの時期です。
そんな彼女が運命を手繰り寄せたのが、全国規模で実施された本作の大規模オーディションでした。数百人規模の若手女優やタレントが参加したとされる選考の現場において、是枝裕和監督は広瀬さんが面接室のドアを開けて入ってきた瞬間、他の候補者にはない決定的な直感を得たと後に映画雑誌の対談で振り返っています。「すずが部屋に入ってきた瞬間、空間に清涼な風が吹き抜けたような感覚を覚えた」という監督の言葉は、まさに運命のキャスティングを象徴する有名なエピソードです。
特筆すべきは、オーディションの段階から一般的な演技テストとは全く異なるアプローチが採られていた点です。是枝監督は従来の台詞読みを課すのではなく、雑談やシチュエーションに応じた自然な対話を通じて、彼女の素の反応や周囲の空気を吸い込む力を観察しました。その結果、原作コミックの主人公と同名である「浅野すず」という極めて多層的な少女像を託すにふさわしい唯一無二の存在として、満場一致で抜擢が決まったのです。