ネット上の口コミやSNSでは、「一見客が冷遇された」「注文を聞いてくれない」「常連の内輪ノリがキツい」といったネガティブな評判が散見される。こうした噂の真相を確かめるべく、都内各所のコの字酒場でフィールドワークを実施し、実際の利用者や店主の声を集約した。
現場で見えてきた真実は、悪意による冷遇ではなく「酒場特有のペース配分」に起因するすれ違いだった。ある老舗酒場の店主は、取材に対してこう打ち明けている。
「うちはワンオペや少人数でやってるから、炭火の前で肉を返している瞬間や、熱燗を計っている最中に大声で呼ばれても手が離せない。タイミングを見ずに怒鳴るように注文されると、どうしても対応が後回しになる。無視しているわけじゃないんです」(都内老舗大衆酒場・店主談)
また、知恵袋やSNSに投稿された「居心地が悪かった」という書き込みを精査すると、その大半が「スマホで大声の通話をした」「許可なく店主や他客の顔を至近距離で撮影した」「酒一杯で2時間以上粘った」など、空間のコードを侵犯したケースであることが分かった。
一方で、一人飲み歴3年という30代女性客からは、まったく異なる生の声が聞かれた。
「最初は緊張して引き戸を開ける手が震えました。でも、挨拶をして静かに飲んでいたら、隣の年配の常連さんが『ここのカシラは味噌が美味いよ』と優しく教えてくれて。お互い長話はせず、乾杯だけしてサッと帰っていく。干渉されすぎず、でも放置されない。都会のどの場所よりも心が安らぎます」(30代会社員女性・実体験証言)
つまり、コの字酒場は「排他的な閉鎖社会」なのではなく、「互いのパーソナルスペースを尊重する相互扶助のコミュニティ」として機能しているのだ。