スタンダール『赤と黒』の物語において、最大のクライマックスであり最大の謎とされるのが、ジュリアンが法廷で見せた態度と、それに続く死の受容です。貴族社会の寵児となり、名門ラ・モール侯爵の令嬢マチルドを手に入れ、陸軍騎兵中尉という確固たる地位を手中に収めたジュリアン。しかし、かつての愛人であるレーナル夫人からの告発状によって将来を絶たれた彼は、ヴェリエールの教会で祈りを捧げる彼女をピストルで撃ち倒します。
奇跡的にレーナル夫人は一命を取り留め、夫人の嘆願やマチルドの奔走によってジュリアンには助かる道が残されていました。ところが、ジュリアンは自ら陪審員たちを激しく挑発します。報道各社の文芸批評や研究者たちの分析でも一致しているのは、彼が法廷で放った「私は下層階級に生まれながら貴族階級の傲慢に立ち向かった罪で裁かれている」という演説が、当時のブルジョワ体制に対する宣戦布告であったという点です。
彼は助命嘆願を一切拒否し、刑務所に面会に来たレーナル夫人と再会を果たした瞬間、自らの内面で起きていた決定的な地殻変動に気づきます。これまで彼を突き動かしていた野心、他者を見下すことで保っていた肥大化した自尊心はすべて虚飾に過ぎず、自分の人生において本当に価値があったのはレーナル夫人と過ごしたあの静かな時間だけだったと悟るのです。ジュリアンにとって、再び世俗の妥協と偽善に塗れて生き延びることは、自らの純粋な魂を裏切ることに他なりませんでした。断頭台の露と消える結末は、破滅の形を取った「究極の精神的勝利」だったと言えます。