エポニーヌを語る上で絶対に外せないのが、第2幕の幕開けを飾る劇中屈指のビッグナンバー「オン・マイ・オウン(On My Own)」です。マリウスから想い人であるコゼットへの手紙を託されたエポニーヌが、夜の雨の街を一人彷徨いながら歌うこのソロは、世界中のミュージカルナンバーの中でも最高峰の感情表現が求められます。
歌詞で描かれるのは、「街が眠りにつく夜、一人きりで彼と歩く幻想を抱くけれど、夜明けとともに現実の孤独へと引き戻される」という生々しい絶望です。日本語詞でも「一人で 生きてきた」「愛しているけれど 彼は私を知らない」というストレートな言葉が並び、聴く者の心を締め付けます。叶わぬ恋の切なさをただ嘆くだけでなく、自分の惨めな境遇を受け入れながらも愛さずにはいられない強い意志が、激しいベルティング発声とともに響き渡ります。
そして最期の「恵みの雨」へと感情のバトンが繋がれることで、彼女の魂の旅路は完成します。一人きりの夜に歌った「オン・マイ・オウン」の孤独が、マリウスの温もりの中で歌う「恵みの雨」によって癒やされるという構成の美しさは、作曲家クロード=ミシェル・シェーンベルクによる劇伴の白眉です。