ブーランジュリー コメットを語る上で外せないのが、店主・小林健二氏のキャリアである。小林氏は単身フランスへ渡り、パリで最も影響力のあるベーカリーの一つ「デュ・パン・エ・デ・ジデ(Du Pain et des Idées)」の門をたたいた。オーナーであるクリストフ・ヴァッスール氏のもとで叩き込まれたのは、単にパンを焼く技術だけではない。パンの本質とは何かという哲学そのものだった。
「デュ・パン・エ・デ・ジデ」は、古代小麦の使用や高温での十分な焼き込み、長時間発酵によって、パン本来の力強い風味を引き出すことで世界的に知られる。小林氏はこの教えを深く身体に刻み込みながらも、帰国後にそのままの模倣を選ぶことはしなかった。
日本の湿度、水質、そして日本人の舌の繊細さ。これらを見極めた上で、フランス伝統のルヴァン製法を日本の素材で再構築する。その決意から生まれたのが「ブーランジュリー コメット」という空間である。店名にある「コメット(彗星)」には、日常に突如として現れ、人々に鮮烈な記憶を残す存在でありたいという願いが込められている。