2019年、WHO(世界保健機関)は「母乳代替品のマーケティングに関する国際規準」を強化した。粉ミルクメーカーに対する広告規制が厳格化される中、「無添加」というキーワードは新たな差別化戦略として浮上した。
日本国内では年間約5万トンの粉ミルクが消費される。市場規模は約800億円。少子化で縮小する市場で生き残るため、各社は高付加価値製品へとシフトしている。無添加製品はプレミアム価格設定が可能で、利益率が通常品の1.5倍に達するケースもある。
消費者心理の巧妙な利用だ。
SNSが増幅する不安と情報の歪み
InstagramやX(旧Twitter)上では、「添加物=毒」という極端な情報が拡散されやすい。2023年にバイラルした「添加物で赤ちゃんがアレルギーに」という投稿は、科学的根拠のないものだったが、3万回以上リポストされた。国立医薬品食品衛生研究所は即座に否定声明を出したが、訂正情報の拡散は元投稿の5%にも満たなかった。
情報の非対称性が不安を煽る。専門家の慎重な説明よりも、感情的な体験談のほうが記憶に残りやすい。これは人間の認知バイアスであり、マーケティング担当者はそれを熟知している。