大村智博士の真骨頂は、自然界に存在する有用な微生物を見つけ出し、その培養液から生理活性物質を特定する卓越したスクリーニング技術にあった。1970年代半ば、自ら学長を務めた北里研究所で研究を進めていた大村博士は、日本の土壌から何千種もの微生物を分離し、その中から特異な能力を持つ株を選び出した。
だが、微生物の発見だけでは薬は完成しない。大村博士は米国の製薬大手メルク社との画期的な共同研究契約を締結する。メルク社の共同研究者であるウィリアム・キャンベル博士らのチームが寄生虫に対する強力な活性を確認し、化学構造の改変を経て誕生したのが、極めて安全で強力な駆虫薬イベルメクチンである。
当時の日本の学界では、民間企業との巨額の共同研究に疑問の目を向ける声もあった。しかし、研究資金の確保と実用化の迅速化を最優先した大村博士のリアリズムが、結果として人類を救う薬の誕生を加速させた。この奇跡のスクリーニングドラマは、数々の科学ドキュメンタリーでも語り継がれている。