「鍋を火から下ろした瞬間からが、本当の調理の始まりだ」と熟練の料理人は語る。味が食材に最も染み込むのは、加熱中ではなく温度が下がっていく冷却プロセスである。80度から40度付近へと温度が下降する際、ジャガイモや玉ねぎの組織が収縮し、煮汁をぐんぐんと吸い上げていく。
沸騰させたまま長時間煮込み続けるのは厳禁だ。煮崩れの原因になるばかりか、水分が蒸発して塩分濃度が急上昇してしまう。弱火でコトコトと具材に火を通したら、一度火を止めて最低でも20分以上休ませる。この「寝かせ」の工程を挟むだけで、翌日の残り物のような深い味わいが出来立ての段階で実現する。