エメラルドゴキブリバチがゴキブリをゾンビ化させるプロセスは、精密機器を操作するかのような2段階の外科的アタックによって完結します。研究機関による高速度カメラ解析と神経生理学的調査により、その驚愕の手順が明らかになっています。
第1段階:胸部神経節への先制攻撃(運動機能の一時的ブロック)
メスのハチはゴキブリに素早く飛びつくと、大顎で背部をガッチリと挟み込み、最初の針を獲物の胸部(前胸部神経節)へ正確に突き刺します。この第1の毒液には高濃度のGABA(ガンマアミノ酪酸)などが含まれており、ゴキブリの前脚を約2〜3分間にわたって急速に麻痺させます。これにより、ゴキブリは激しい暴走や反撃を行うことができなくなります。
第2段階:頭部神経節への精密な「脳外科手術」
標的の前足が動かない隙を見計らい、ハチはゴキブリの頭部へ針を深く差し込みます。針の先端には微細な感覚器官(メカノレセプター・ケモレセプター)が備わっており、硬い頭蓋の内部をスキャンしながら「前大脳(脳)」および逃走反射を司る「食道下神経節」を直接特定します。標的の神経組織を物理的に感知した瞬間、特異的な神経毒を直接注入するのです。
この毒に含まれる成分は、運動の動機付けや覚醒に関わる神経伝達物質「オクトパミン」の受容体を強力にブロックします。麻痺が解けた後、ゴキブリは自力で歩く筋肉の機能を取り戻しているにもかかわらず、「危険を察知して逃げる」「自発的に移動する」という生存本能や動機(意志)が完全に消失します。
触角をリード代わりに引いて歩かせる「奴隷誘導」
脳手術を終えたハチは、ゴキブリの長い触角の先端を半分ほど噛み切って体液(ヘモリンフ)を吸汁し、水分と栄養を補給します。その後、短くなった触角の根元を口でくわえ、犬のリードを引くように引っ張ります。ゴキブリは自らの脚でトボトボとハチの後をついて歩き、暗い巣穴(地中の隙間や樹洞)へと自発的に歩かされていくのです。