日本中の女性がこぞって真似をした「真知子巻き」ですが、実は最初から計算された衣装デザインではありませんでした。その発祥には、過酷な映画撮影現場における切実な事情が隠されています。
物語の舞台となった北海道の美幌峠や屈斜路湖周辺のロケ地は、息が凍るほどの極寒の地でした。あまりの寒さに耳がちぎれそうになり、髪型を維持することすら困難だった現場で、寒さをしのぐために岸惠子さん自身が持参していたスカーフやショールをとっさに頭からすっぽりかぶり、首元に巻きつけたことがすべての始まりです。
この防寒対策として生まれた即興のスタイルがカメラ越しに驚くほど美しく映し出され、大庭秀雄監督がそのまま劇中のトレードマークとして採用しました。映画のメガヒットとともに「あの巻き方をすれば誰でも上品で可憐に見える」と評判が広がり、瞬く間に全国のデパートから真知子巻きスカーフが消えるほどの購買運動を引き起こしました。偶然のひらめきと現場のリアリティが、昭和を象徴するファッションアイコンを誕生させたのです。