身元特定と並んで極めて重要な使命が、焼死体の死因特定です。大学の法医学教室へ運ばれた遺体には、直ちに専門医による司法解剖が施されます。ここで法医学者が最も鋭く観察するのが、医学用語で「生活反応(生体反応)」と呼ばれる生きていた証拠です。
人が生きて呼吸をしている状態で火災に巻き込まれた場合、煙とともに空気中の煤(すす)を吸い込みます。そのため、気管や気管支の粘膜に黒い煤が付着しているかどうかが重要な判断材料となります。一方、すでに息絶えた状態で火を放たれた遺体の気道には、煤が奥まで入り込むことはありません。
もう一つの決定的な指標が、焼死体から一酸化炭素中毒の痕跡を検出する血液検査です。火災の不完全燃焼で生じた一酸化炭素を吸入すると、血液中のヘモグロビンと強力に結合し、「一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)」が生成されます。この濃度が著しく高ければ「火災の煙を吸って亡くなった」と判断でき、逆に数値が低く気道に煤もなければ、火災発生前に別の要因で死亡していた可能性が濃厚となります。焼死体に生活反応が存在するかどうかは、単なる死因の究明を超え、凶悪犯罪をあぶり出す決定打となるのです。