人間をはじめとする陸上哺乳類は、無意識のうちに呼吸を続ける「自律呼吸」を行いますが、クジラやイルカは一回ごとに意識して呼吸を行う「随意呼吸」の動物です。そのため、眠っている最中に完全に意識を失ってしまえば、窒息死してしまうリスクと隣り合わせです。それでもマッコウクジラが睡眠中に溺れない理由には、驚異的な生理機能が隠されています。
マッコウクジラの筋肉中には、酸素を蓄えるタンパク質「ミオグロビン」が陸上動物とは比較にならないほど高濃度に含まれています。一度水面で息継ぎ(ブロー)を行えば、血液と筋肉の隅々まで酸素を行き渡らせ、呼吸を止めたままでも1時間以上活動を継続できます。15分程度の短い仮眠であれば、体内に十分な酸素を残したまま水中で静止できるため、睡眠中に溺れる心配はまったくありません。
また、頭頂部にある単一の噴気孔は強力な筋肉の弁によって固く閉じられており、休息中に誤って海水が気道へ侵入するのを完全に防いでいます。