この事件を題材にした創作物の中で、最高峰のリアリズムと人間の業を描き切ったのが、名匠・内田吐夢監督による1960年の傑作映画『妖刀物語 花の吉原百人斬り』だ。内田吐夢は、事件を単なる猟奇殺人として描くことを拒絶した。彼がカメラに収めたのは、閉鎖的な遊郭社会の欺瞞と、そこに翻弄され孤立していく人間の凄絶な精神の崩壊である。
東映が誇る重厚なセット美術と計算し尽くされた陰影のコントラストは、吉原の華やかさとその裏に潜むおぞましい冷酷さを余すところなく浮き彫りにした。主人公が桜吹雪の中で白刃を振るうクライマックスは、邦画史に残る残酷美として映画産業に強烈な足跡を刻み込み、後進の映像作家たちに多大な影響を与え続けている。