日高進というキャラクターを語る上で欠かせないのが、古典的なピカレスクロマン(悪漢小説)の枠組みを根底から覆した点だ。従来の悪漢は、己の野望や信念のために社会の法を破る。だが進には高尚な野心など微塵もない。ただ今日打つパチンコ代が欲しい、その一点のためだけに周囲の人間関係をチェスの駒のように消費していく。
自分を助けてくれた恩人の優しさを瞬時に金銭へと換金し、トラブルが発生すれば他人に責任を転嫁して煙に巻く。その手口は狡猾でありながら、どこか場当たり的だ。それにもかかわらず、なぜか周囲が彼の泥沼に巻き込まれ、次々と破滅していく。悪意のない悪魔。自己正当化の天才。この主人公の異常な造形は、悪の美学を描くピカレスクロマンの中でも極めて異質で、類を見ない完成度を誇っている。