黄猿が掲げるモットーは「どっちつかずの正義」である。徹底的な正義を貫く赤犬や、自らの良心に従う青雉とは異なり、彼は常に組織の命令に従いつつも、本心がどこにあるのかを周囲に悟らせない。この掴みどころのなさは、田中邦衛さんが生涯で演じてきた役柄の幅広さと見事にリンクしている。
田中さんといえば、『北の国から』の黒板五郎役で見せた不器用で温かい父親像が真っ先に思い浮かぶかもしれない。しかし、その一方で『仁義なき戦い』シリーズなどで見せた、卑劣でありながらもどこか憎めない、あるいは底知れない恐怖を感じさせる悪役の演技もまた一級品であった。善と悪、強さと弱さ、滑稽さと恐ろしさ。その両極端な要素を同時に抱えることができる稀有な役者だったからこそ、黄猿という「敵でありながら憎みきれない、底の知れない強者」のキャラクター性に説得力が生まれたのである。