津坂匡章の名を全国区へと押し上げた最大の出世作が、山田洋次監督による不朽の名作映画『男はつらいよ』シリーズです。津坂が演じたのは、主人公・車寅次郎を「兄貴!」と慕い、日本全国を共に旅するテキヤの舎弟・川又登(登役)でした。
1969年の第1作『男はつらいよ』から出演した登は、お調子者でありながら寅次郎の理不尽な怒りを一身に受け止め、時に観客の気持ちを代弁して泣き笑いを届ける、物語に欠かせないキーパーソンでした。寅次郎と登のテンポの良い掛け合いは、初期『男はつらいよ』の爆発的ヒットを支える最大のエンジンとなったのです。
主演の渥美清との関係について、当時の撮影現場を知るスタッフや関係者は「渥美さんは津坂さんの勘の良さと人懐っこさを心から可愛がっていた」と証言しています。渥美清は普段、役者仲間と私生活で深く群れることを好まないストイックな人物として知られていましたが、津坂の持つ天性のユーモアとアドリブ対応力には全幅の信頼を寄せていました。津坂自身も後年のインタビューや手記で、「渥美さんの背中を見て役者としての呼吸や間の取り方を全て学んだ」と語っており、二人は単なる共演者を超えた師弟のような深い絆で結ばれていました。