多画数漢字の話題で必ず議論の的となるのが、日本で作られたとされる84画の「たいと」と、中華料理でおなじみの「ビャンビャン麺」の漢字(56〜58画)です。果たしてこれらは公式な文字として実在しているのでしょうか。
まず、日本の一番画数の多い漢字 たいと 84画について検証します。この文字は「雲」を3つ、「龍」を3つ組み合わせた驚異的な形態を持ちます(雲12画×3=36画、龍16画×3=48画、計84画)。読み方は「たいと」「だいと」「とうと」と伝えられ、かつて「日本一画数の多い苗字」としてテレビ番組や雑学本で大々的に紹介されました。
早稲田大学の笹原宏之教授らによる文字社会学的な調査・文献検証によると、この文字は昭和30年代に旧日本電信電話公社(現在のNTT)の電話帳データベース作成時や、ある証券会社の顧客名簿に実在したと記録されています。ただし、現代の戸籍情報や住民基本台帳において「たいと」姓を名乗る人物の現存は確認されていません。江戸時代の戯作者による創作、あるいは個人の雅号・屋号が名簿類に紛れ込んだ「幽霊名字」である可能性が極めて濃厚と結論づけられています。
一方、中国・陝西省発祥の幅広麺料理を指す画数の多い漢字 ビャンビャン麺の漢字(𰻞 / 𰻝)は、実在する現用文字です。字形によって56画から58画の揺らぎがありますが、「穴・言・糸・長・馬・月・刂・心・辶」など膨大な部首が凝縮されています。かつては辞書未収録の方言字・民間俗字扱いでしたが、2026年の「Unicode 13.0」において正式に国際規格(U+30EDD / U+30EDE)へと登録され、現代のデジタル空間で正当な文字コードを獲得しました。