インターネット上のコミュニティや動画サイトのコメント欄において、しばしば見受けられる誤解の一つに「矢沢永吉のライブでは初期バンド時代のナンバーはほとんど聴けないのではないか」という先入観があります。
1970年代初頭、革ジャンにリーゼントというスタイルで日本のポップカルチャーを塗り替えたバンド・キャロル。解散以降、矢沢はソロアーティストとしてのアイデンティティを確立するために一時期は過去曲の演奏を意図的に封印していました。しかし、節目となるアニバーサリー公演や特別なスタジアムライブにおいて、キャロル名曲選に位置付けられる「ファンキー・モンキー・ベイビー」や「ルイジアンナ」が披露されると、会場のボルテージは臨界点を突破します。ネット上の俗説とは異なり、矢沢は自身の原点を否定しているのではなく、むしろキャリアの決定的なスパイスとして大切に温存しているのです。
また、ストリーミングサービスで「矢沢永吉作業用BGM」を検索するユーザーの間で生じがちな盲点として、スタジオ録音盤とライブ音源の極端な質感の違いが挙げられます。自宅でのテレワークや長距離ドライブのBGMとして聴く場合、スタジオ音源は卓越したシティポップ・AORとして心地よい集中力を提供します。一方で、ライブテイクはマイクスタンドのアクションやオーディエンスの熱狂的コールが混ざり合い、作業用という枠組みを軽々と飛び越えて「聴き手を強制的に興奮させるエンターテインメント」へと変貌を遂げます。両者のキャラクターを把握した上でプレイリストを選択することが重要です。