新世界国際劇場を語る上で欠かせないのが、1階の「新世界国際劇場」と、薄暗い階段を降りた先に広がる「新世界国際地下劇場」の強烈なコントラストです。1枚の入場券を握りしめれば、地上で往年のハリウッドアクションや香港映画を堪能したあと、地下で成人映画の世界へと足を踏み入れることが可能でした。
地下劇場の空間は、ネット上の掲示板やSNSにおいて「足を踏み入れるのに最も勇気がいる映画館」「異界への入り口」としばしば形容されました。古びた木製ベンチ、煙草のヤニで飴色に変色した壁面、通路を行き交う人々の無言の視線。そこには、インターネット興隆以前の昭和のアンダーグラウンドカルチャーがそのまま真空パックされたような生々しい熱気が充満していました。
当時の常連客が記した回顧録やブログの記録からは、映画の鑑賞そのもの以上に「社会の厳しい視線から身を隠し、誰にも邪魔されずに眠る場所」として利用していた生活困窮者や労働者の姿が浮き彫りになります。冷房の効いた暗がりで、缶酎ハイ片手に鼾をかく老人と、スクリーンを凝視する映画青年が同じ空間に同居する――そんな寛容さと混沌が、この劇場最大のアイデンティティでした。