昭和初期の1935年(昭和10年)頃に創業したとされる「たぬきや」は、戦前・戦後、そして平成の終わりまで、およそ80年以上にわたり多摩川のほとりで営業を続けた老舗の茶屋・大衆酒場でした。京王相模原線の京王多摩川駅から徒歩数分、川沿いのサイクリングロード直下に位置し、散歩途中の近隣住民や休日の行楽客、近隣の調布京王競馬場(かつて存在)や京王閣競輪場の愛好家、ツーリング中のサイクリストまで、あらゆる人々を等しく受け入れてきた場所です。
そんな名店が2018年11月下旬、突如として営業終了を告知した際、多摩川流域のみならず全国の酒場ファンに激震が走りました。公式や関係者の話を総合すると、閉店に至った直接の要因は主に「店主・運営関係者の高齢化に伴う体力的な限界」と「店舗建物の著しい老朽化」でした。厨房を切り盛りしてきた女将さんをはじめとするスタッフの負担は年々増大しており、後継者の確保も極めて困難な状況に直面していました。
さらに背景として見逃せないのが、河川敷という立地特有の制度的な壁です。店舗が存在していた土地は国土交通省が管理する一級河川の河川区域内であり、営業の継続には厳しい河川法に基づく河川占用許可の更新が関わっていました。近年、激甚化する風水害対策として全国の河川堤防改修や護岸強化が急務となる中、半世紀以上前の既得権益的な許可に基づいて存続していた簡易建築物を、大規模改修して次世代へ事業承継することは法制度上、至難の業だったという行政的側面も存在します。