彼女のデビュー作であるブログ、そして書籍化された『オカマだけどOLやってます。』は、当時の社会にとって新鮮な驚きだった。当時はまだ、トランスジェンダー当事者がメディアに出る際、過度にデフォルメされたキャラクターを演じさせられることが一般的だったからだ。しかし、能町みね子が描いたのは、満員電車に揺られ、理不尽な上司に愚痴をこぼし、同僚とランチを食べるという、あまりにも「普通」のOLの日常だった。
この淡々とした筆致こそが、逆に読者の胸を打った。境界線を引くのではなく、「あなたと同じ人間が、ここにいる」という事実を、説教臭さなしに提示したのだ。彼女の文章は、エンタメでありながら、極めて高度な社会批評でもあった。