異変は、何の前触れもなく訪れた。自宅で過ごしていた深夜、突如として襲った耐えがたい頭痛と体調の急変。ろれつが回らず、体の自由が利かない。そのただならぬ様子に気づいた当時の夫が、迷うことなく119番通報を行った。この「迷わなかった数分間」こそが、彼女の命を救い、後遺症を最小限に抑える決定打となったのだ。
日本脳卒中学会も広く啓発を行っているように、脳血管障害の発症時は「FAST」と呼ばれるチェック項目が極めて重要になる。顔の麻痺(Face)、腕の脱力(Arm)、言葉のもつれ(Speech)、そして一刻を争う時間(Time)。磯野貴理子のケースは、まさにこの初期症状を見逃さず、迅速な救急要請へと繋げた模範的な事例として医療従事者の間でも語り継がれている。脳梗塞は分単位で脳細胞が死滅していく時間との闘いだ。早期発見と即座の治療介入がなければ、今の彼女の姿はなかったかもしれない。