女優としての菊池亜希子もまた、唯一無二の光を放つ。彼女の主演作として名高い『森崎書店の日々』は、神保町の古書店街を舞台にした日本映画の隠れた名作だ。失意の底にいた主人公が、本と街の人々の温もりに触れて再生していく姿を、彼女は過剰な芝居を排した驚くほど自然な呼吸で演じきった。
彼女がスクリーンに登場すると、その場の空気がふっと緩み、生活のリアリティが立ち現れる。セリフのない瞬間の視線の揺らぎ、靴音の響き、お茶を飲む手の仕草。ドラマチックな劇薬ではなく、日々の暮らしの延長線上にある感情の揺らめきを表現できる俳優として、日本映画界において極めて貴重なポジションを確立している。