料理の現場において、銀杏をそのままフライパンに投入して強火で乾煎りする行為は、極めて危険な調理事故を引き起こす典型例として知られています。消防機関や消費生活センターの事故事例でも、栗や銀杏など硬い殻に覆われた種実類の加熱破裂による火傷や目の負傷が定期的に報告されています。
なぜ、あの小さな実が周囲を破壊するほどの威力を伴って弾け飛ぶのでしょうか。その主たる要因は、銀杏の持つ「強固な気密構造」と「内部水分の体積膨張」にあります。
銀杏の可食部(胚乳)には、収穫直後であれば重量の約50〜60%に及ぶ水分が含まれています。フライパンで外側から熱が加わると、内部の水分が沸騰して水蒸気へと相転移を起こします。水は気体(水蒸気)へと変化する際、体積が約1700倍に膨張する物理的性質を持っています。通常の食材であれば皮の隙間や組織から蒸気が外へ抜けていきますが、銀杏の外殻(中果皮)は極めて緻密な木質構造で覆われており、気体をほとんど通しません。
殻に一切の割れ目がない場合、フライパンの熱によって殻の内部は高圧の圧力鍋、あるいは密閉された圧力爆弾と化します。内部の蒸気圧が殻の物理的破壊強度を超えた瞬間、一気にエネルギーが解放され、轟音とともに破裂(突沸爆発)します。このとき飛散する硬い殻の破片は鋭利な刃物のようになり、熱湯同然の高温水分とともに周囲数メートルへ弾け飛びます。顔面への直撃や失明、重度の火傷、さらにはフライパンのガラス蓋の破損につながるため、「割らずにそのまま加熱する」行為は明確に危険であると断定できます。