「懐石旅庵 阿しか里」の屋号に冠された「懐石」の二文字は、単なる飾りではありません。多くの宿泊客が「料理を食べるためだけに再訪する価値がある」と口を揃える夕食は、伝統的な京懐石の流れを汲みながら、相模湾の新鮮な地魚や足柄・箱根山麓の滋味深い旬野菜をふんだんに取り入れた珠玉の会席料理です。
板前の卓越した技量が如実に表れるのが、すべての基本となる「出汁」の澄んだ深みです。利尻昆布と厳選された鰹節から丁寧にとられた一番出汁を用いた煮物椀は、蓋を開けた瞬間に広がる芳醇な香りと、素材本来の輪郭を際立たせる上品な味わいが宿泊客を唸らせます。月替わりで組み立てられる献立は、その時期に最も脂が乗った地魚の造りや、丹沢水系の伏流水で育まれた野菜の炊き合わせなど、全8〜9品で構成され、器の選定から盛り付けの美しさに至るまで一切の妥協がありません。
翌朝に供される朝食メニューもまた、夕食に劣らない強いこだわりが凝縮されています。料理長が厳選したお米をふっくらと炊き上げた白飯、じっくりと炭火の香りをまとわせた近海産のアジの干物、出汁の効いた優しい味わいの玉子料理、そして目覚めの身体に染み渡る具だくさんの味噌汁。朝の光が差し込む食事処でいただく朝餉は、過度な華美さを排しつつも、日本の食文化の真髄を再認識させる贅沢な時間に仕上がっています。