算数の授業や市販の学習参考書で定番となっているのが、円を3分割して「道のり」「速さ」「時間」を配置した「みはじの公式(または『はじきの法則』)」です。「速さを求めたいときは速さを隠して『道のり÷時間』」「道のりを求めたいときは『速さ×時間』」と唱える方法は、一見すると直感的でわかりやすい救済策のように映ります。しかし、大手進学塾の指導データや教育心理学の研究において、「みはじを使ってはいけない理由」が強く警鐘を鳴らされています。
教育関係者が指摘する最大の落とし穴は、図の操作に頼ることで「なぜその演算になるのか」という数量感覚(センス)の育成が阻害される点にあります。「みはじ」は計算の手順を一時的に記号化して暗記させる対症療法に過ぎず、概念そのものを理解させたわけではありません。そのため、以下のような典型的なミスが頻発します。
例えば、「時速60kmで進む自動車が1時間20分で進む道のり」を求める場合、公式の形だけを覚えている学習者は「60 × 1.2」や「60 × 80」といった無意味な立式に走りがちです。「1時間20分=1と1/3時間(4/3時間)」という単位換算の変換ステップを挟む必要があるにもかかわらず、図のマス目に数字を無理やり当てはめようとして思考がショートしてしまうのです。
大手中学受験塾のベテラン算数科主任は、指導報告の中で次のように証言しています。「四谷大塚やサピックスの入試模試で偏差値50前後から伸び悩む児童の答案を分析すると、ほぼ例外なく計算用紙の余白に『みはじ』の円が走り書きされています。基礎的な一問一答なら通用しますが、条件が複雑化する小学校算数の速さ文章題や、ダイヤグラムを読み取る難関校の入試問題では、図の暗記が完全に思考の足かせとなって脱落していくのです」。