法的な無罪放免が担保されていたとしても、救急の最前線に立ったバイスタンダーが負う「内面的な傷」は軽視できない。実際の救命現場を経験した市民の手記や聞き取り調査からは、胸に刺さる過酷な現実が伝わってくる。
「手が震えて119番の番号が押せなかった」「肋骨が折れる鈍い感触が指先に残り、何週間も不眠に悩まされた」「懸命に心臓を押し続けたが、病院で死亡が確認されたと聞き、自分のやり方が悪かったのではないかと自責の念に押しつぶされた」——これらは、勇気を出して現場に介入した市民が抱える偽らざる心理的負担とトラウマの叫びである。
現場を目撃・処置した後に生じる急性ストレス障害(ASD)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)から善意の救助者を守るため、制度面でのセーフティネットが急速に整備されつつある。その象徴が、全国の自治体や消防本部で導入が進む「バイスタンダー保険制度(バイスタンダー見舞金制度)」である。
この制度は、消防本部が民間保険会社と契約を結び、バイスタンダーとして応急手当に関わった市民に対して以下の手厚い補償を公費で提供する仕組みとなっている。
- 精神的ケアの無償提供:救命活動後に強い不安やトラウマを抱えた市民に対し、専門の精神科医や公認心理師による無料カウンセリングを案内する体制。
- 感染症検査費用の全額補助:救助対象者の血液や体液に接触した場合の各種ウイルス感染検査費用を見舞金として補填。
- 第三者賠償責任への備え:万が一、救助活動中に自身の衣服が汚損したり、不可抗力による事故が発生した際の補償。
救助を行った市民は、現場で活動を終えた後、対応に当たった消防署の救急課へ申し出ることにより、これらの手厚い支援や心のケア窓口へアクセスできる。社会は市民の勇気ある行動を「やりっぱなし」にするのではなく、精神的・物理的に守り抜く体制へと確実にシフトしている。