ここで、採用市場における構造的な裏事情に鋭く切り込む必要があります。実は、厚生労働省が公開している「公正な採用選考の基本」において、「人生観、生活信条、尊敬する人物、思想」などは憲法で保障された思想・良心の自由に抵触する恐れがあるため、原則として企業が面接で質問することは配慮すべき事項(不適切質問)と位置づけられています。
ネット上の一部論調では「厚労省がタブーとしているのだから、面接で尊敬する人を聞く企業はすべてブラック企業であり、回答を拒否すべきだ」という極論が見受けられます。しかし、現実のビジネスシーンや採用現場の最前線を観察すると、実情ははるかに複雑です。
大手上場企業の多くはコンプライアンス研修を徹底しており、この手の質問をマニュアルから排除しています。一方で、中堅・ベンチャー企業や、面接官が現場マネージャーである場合、「応募者の人柄や仕事に対するスタンスをフランクに知りたい」という純粋なコミュニケーションの延長で質問してしまうケースが依然として後を絶ちません。
ここで重要なのは、応募者側が「その質問は厚労省の指針に反しています」と正面から反論することは、選考の通過という実利を考えた場合には極めて不利に働くという冷酷な現実です。法律論を振りかざして空気を凍りつかせるのではなく、「政治的思想や信条」とは無縁の「仕事に対する取り組み姿勢・行動特性」を語る場へとスマートに誘導することこそが、大人のビジネスパーソンとしての柔軟性を示す最善手となります。