インターネット上の掲示板や民間療法サイトには、「蓄膿症は市販の漢方薬や点鼻薬で治る」「免疫力を高めれば放置しても自然に引く」といった楽観的な言説が溢れています。しかし、歯性上顎洞炎に関して言えば、自然治癒の可能性は医学的にゼロと断言できます。
なぜなら、原因となっている歯の内部(根管系)は血流が途絶えた閉鎖空間であり、免疫細胞や抗体が自力で到達できません。放置された根管内は細菌の強固な巣窟(バイオフィルム)と化しており、持続的に上顎洞粘膜へ病原菌を供給し続けます。
また、抗生物質の効果に対する過信も極めて危険な誤解です。耳鼻科で処方されるクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質を服用すると、一時的に上顎洞内の粘膜浮腫が引いて鼻水や悪臭が和らぐことがあります。しかし、これは「洞内に溢れ出た菌の活動を一時的に沈静化させた」に過ぎず、歯槽骨内の根本病変を殺菌したわけではありません。服薬を中止すれば数週間で細菌が再増殖し、炎症が再燃します。抗生物質の漫然とした長期連用は、耐性菌を生み出すリスクを高めるばかりです。
さらに恐ろしいのは放置による重篤化リスクです。上顎洞の骨壁を侵食した細菌感染が上方の「眼窩(目の入っている骨の窪み)」に波及すれば、眼窩蜂窩織炎を引き起こして視力障害を招く恐れがあります。最悪の場合、頭蓋骨の底を越えて脳硬膜外膿瘍や髄膜炎、海綿静脈洞血栓症といった生命を脅かす中枢神経系合併症に直結することも学術論文で多数報告されています。「たかが歯の虫歯、たかが鼻づまり」という軽視は命取りとなります。