『鬼滅の刃』における時透無一郎の死亡シーンは、原作漫画の第20巻・第165話「愕然と戦慄く」での上弦の壱・黒死牟との遭遇から始まり、第21巻・第179話「兄を想い弟を想い」で完全に息を引き取るまで、計15話にわたる長大なスケールで描かれています。数あるジャンプ作品のバトル展開の中でも、これほどまでに容赦なく、かつ崇高な精神性を伴って描かれた死亡劇は類を見ません。
読者が最も衝撃を受けた無一郎の胴体切断および四肢欠損のプロセスは、黒死牟との実力差をまざまざと見せつける形で進行しました。刀鍛冶の里編で上弦の肆・玉壺を単独撃破し、柱稽古を経て痣(あざ)を自在に発現できるようになった無一郎でしたが、400年以上にわたり武の極致を研ぎ澄ませてきた黒死牟の前では、最初の一太刀すら届きませんでした。
なぜ作者の吾峠呼世晴先生は、まだ14歳の少年に過ぎない無一郎の胴体切断という過酷な描写に踏み切ったのでしょうか。その最大の理由は、黒死牟という存在が「生半可な覚悟や五体満足のままでは絶対に倒せない絶対強者」であることを視覚的に証明するためです。
第175話において、無一郎は岩柱・悲鳴嶼行冥、風柱・不死川実弥との連携の中で、自分が「捨て石(囮)」として黒死牟の間合いに飛び込まなければ、主力である2人の柱が削り殺されると瞬時に計算しました。左足を斬り飛ばされても止まらず、黒死牟の左脇腹に日輪刀を深く突き刺した直後、黒死牟が体内から放った刃によって無一郎の身体はへその上から真っ二つに引き裂かれます。しかし、上半身だけになっても彼の右手は刀の柄を離さず、死の淵で発揮した超人的な握力によって刀身を赤く染め上げる赫刀の発現へと至ったのです。この執念の一撃が黒死牟の内臓を焼き焦がし、最終的に頚(くび)を斬り落とす決定的な突破口となりました。