ボンゴレロッソという名称の成り立ちを分解すると、イタリア語の「vongole(アサリなどの二枚貝)」と「rosso(赤い)」という2つの単語に行き着きます。つまり、直訳すれば「あさりの赤いパスタ」を意味します。対する「ボンゴレビアンコ」の「bianco」は「白い」を意味し、トマトを使わずに白ワイン、オリーブオイル、ニンニクのみでシンプルに仕上げるスタイルを指します。
料理の成り立ちという歴史的観点から見ると、両者の背景には興味深い食文化の変遷が存在します。元来、ナポリを中心とする南イタリア・カンパニア州の漁師町で生まれたボンゴレは、獲れたての二枚貝を海水や少量のワインで蒸し煮にし、茹で上げたパスタに絡めた簡素な浜料理でした。これが現在の「ビアンコ」の原型です。18世紀後半から19世紀にかけて新大陸から持ち込まれたトマトがナポリの民衆食として定着すると、あさりの煮汁にトマトペーストやピューレを加える手法が誕生し、これが「ロッソ」へと発展を遂げました。
味わいの構造における決定的な差異は、「旨味の相乗効果」のメカニズムにあります。ビアンコがあさりに含まれるコハク酸とニンニクの風味をダイレクトに楽しむ引き算の美学であるのに対し、ロッソはあさりのコハク酸にトマト由来の豊富なグルタミン酸を掛け合わせる足し算の料理です。異なる種類の旨味成分が重なり合うことで、舌に感じる旨味の強度は単体の場合に比べて飛躍的に増幅されます。