長年にわたり語り継がれてきた「腕の毛を剃ると濃くなる噂の真相」について、日本皮膚科学会に所属する複数の皮膚科専門医や臨床データは明確にその俗説を否定しています。カミソリで皮膚表面の毛を剃留したからといって、皮下深くに存在する毛母細胞のDNA情報や遺伝的要因が変化し、毛の本数が増加したり太さが倍増したりする生体現象は医学的に起こり得ません。
それにもかかわらず、多くの人が「剃った後に毛が濃くなった」と錯覚してしまう背景には、円錐形という毛の立体構造が関係しています。自然に生え伸びた体毛は先端に向かうほど細くなっていますが、カミソリで水平に毛を切り落とすと、最も太い根元近くの断面が露出します。この平らで太い断面が皮膚表面から伸び出す際、視覚的に黒く太い毛が生えてきたように脳が認識するわけです。
ただし、まったく別の意味で注意すべき現象が存在します。カミソリの刃によって角質層が削られ、慢性的な炎症やカミソリ負けを起こすと、皮膚は外部刺激から生体を防御するためにメラニン色素を過剰分泌します。この摩擦性色素沈着が原因で毛穴周りが黒ずみ、結果として「以前より毛が密集して濃く見える」という状態を自ら招いてしまうケースが臨床現場で多数報告されています。