2016年のプロ野球ドラフト会議において、山本由伸の指名順位は「オリックス・バファローズ第4巡目」でした。この年のドラフトは、今井達也(作新学院)、藤平尚真(横浜)、寺島成輝(履正社)、高橋昂也(花咲徳栄)の「高校ビッグ4」に世間の注目が集中しており、甲子園に姿を見せなかった山本のプロ入り前の評判は、一般メディアの間では限定的なものでした。
しかし、プロのスカウト陣の評価は二極化していました。最速151km/hの直球と高速フォーク、卓越した制球力を持ちながら、なぜ上位指名を見送る球団が相次いだのか。そこには2つの明確な理由が存在していました。
第1に、投手としては小柄な公称178cm(当時、実寸は175cm前後と見られていた)という体格。第2に、2年春に発症した右肘の故障歴に対するメディカル面の懸念です。当時、多くの球団スカウトは「体が小さく、肘に爆弾を抱えている素材は上位では指名しにくい」と判断していました。
この状況を冷徹に分析し、逆手に取ったのがオリックスの九州地区担当スカウト・山口和男氏でした。山口スカウトは山本の骨格の連動、指先のリリース感覚、そして何より野球に対する求道者のような探究心を間近で観察し続け、「体格の小ささを補って余りある天才的な身体操作能力がある。ドラフト1位級の器だが、他球団の評価傾向から見れば下位でも獲得できる」と確信。1位で山岡泰輔を指名した上で、4位という絶妙なウェーバー順まで山本を泳がせる戦略を完遂したのです。これが現在、プロ野球史に残る「スカウティングの奇跡」と呼ばれるドラフト4位指名の真相です。