事故の発生直後、遺族が最も精神的に追い詰められるのが「飛び降り賠償金は誰が払うのか」という責任の所在です。ビルオーナーや管理会社から高圧的な連絡を受け、パニックに陥る遺族も少なくありません。
日本の民法において、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)は「不法行為を行った本人」に帰属する一身専属的な性質を持ちます。したがって、行為者が成人の場合、たとえ血のつながった親や配偶者であっても、原則として飛び降り事故遺族の支払い義務は法律上一切存在しません。
ただし、注意すべき例外が2点あります。1点目は行為者が未成年などで責任能力を欠き、親に監督義務違反(民法714条)が認められる場合。2点目は、遺族が本人の権利義務を「相続」してしまった場合です。損害賠償債務はマイナスの財産として相続の対象となるため、手続きを怠ると遺族が債務を肩代わりすることになります。
なお、「本人が加入していた保険で補填できないか」という相談が後を絶ちませんが、個人賠償責任保険の適用範囲においては「故意による損害」は一律で免責条項に指定されています。自殺や飛び降りによる損害に対しては、特約の有無にかかわらず保険金が支払われないのが冷徹な保険実務の現実です。