多くのファンが抱く「なぜトップ漫画家がイラストレーターへ転身したのか」という疑問に対し、江口氏自身は過去のインタビューで「漫画を描く過程で、何よりも1コマの中の女の子を最高に可愛く描くことに執着してしまった」という主旨の告白を残しています。
ストーリーを前進させるためのコマ割りよりも、「このアゴのライン」「スニーカーの紐の結び目」「風になびく前髪の角度」を極限まで美しく描くことに全神経が向かってしまう――その芸術家肌のこだわりこそが、週刊連載漫画の枠組みを超えさせた決定的な理由でした。1本の線にかける情熱が、必然的に彼をイラストレーションという表現形式へと導いたのです。
制作現場における驚きの秘話として知られるのが、「一切の無駄な線を排除するための過酷な推敲作業」です。江口氏の線画は一見すると非常に軽やかでシンプルに見えますが、その下には何十回、何百回と描き直された膨大なラフが存在します。「最も雄弁な最小限の線」を選び抜くそのストイックな姿勢こそが、半世紀近くにわたりクオリティを維持し続ける根源となっています。