インターネット上や民間の知恵として広まっている睡眠法のなかには、現代の睡眠医学から見ると逆効果であることが判明している危険な俗説が散見されます。
その筆頭が「お酒を飲んで寝落ちする(寝酒・ナイトキャップ)」という誤った対処法です。確かにアルコールに含まれるGABA受容体刺激作用により、一時的に入眠までの時間を短縮させる効果はあります。しかし、アルコールが体内でアセトアルデヒドへと代謝される過程で交感神経が強く刺激され、睡眠の後半部分において激しい中途覚醒とレム睡眠の消失を引き起こします。さらに利尿作用や脱水、睡眠時無呼吸症候群の悪化を招くため、睡眠の質は著しく破壊されます。寝酒を習慣化すると耐性がつき、同じ睡眠効果を得るために飲酒量が増大していくアルコール依存へのリスクも極めて高くなります。
もう一つの根強い誤解は、「成人は絶対に1日8時間眠らなければならない」という固定観念です。厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠ガイド」等の最新指針でも示されている通り、必要な睡眠時間には大きな個人差があり、加齢とともに自然と短縮していきます。働き盛りの年代であっても、実質的な睡眠時間が6時間前後で日中の機能が保たれているケースは多々あります。「8時間寝なければ病気になる」という脅迫的な思い込みこそが、夜中の覚醒時に過度な焦りを生み出す原因となっているのです。