ネット上の掲示板やSNSでは、長年にわたり「ビデオ・本販売 孫悟空」の正体について様々な憶測が飛び交ってきました。「巨大な反社会的勢力の資金源だったのではないか」「全国的な謎の地下組織がフランチャイズ展開していたのではないか」という都市伝説めいた噂です。
しかし、商業登記や当時の流通事情を丹念に調査すると、実態はより合理的かつ現実的な構造であったことが浮き彫りになります。当時、こうした郊外型ビデオ店は、単一の巨大上場企業が全国直営展開していたわけではありません。地方ごとに存在した独立系の中小メディア卸業者や、個人オーナーがノウハウを共有して出店する緩やかなボランタリー・チェーン(またはエリアごとの商標流用)に近かったと見られています。
「孫悟空」という商標や看板デザインが各地で酷似していた理由について、当時を知る店舗内装業者はこう語っています。「当時は看板の意匠登録に対する意識も大らかで、誰かがヒットさせた『黄色地に西遊記の孫悟空』という目を引くデザインを、看板屋やプレハブ業者がパッケージ化して各地の土地持ちや脱サラ希望者に提案していたケースが多かった。コンテナ1棟と少々の在庫があれば数百万円で即座に開業できたため、脱サラ組の自営業者が飛びついた」という事実があります。
もちろん、扱う商品の一部に正規ルートではない海賊版や無修正作品が含まれていた事例もあり、警察の家宅捜索を受けた店舗が存在したのは紛れもない事実です。そうした散発的な事件報道が拡大解釈され、「孫悟空=すべて裏組織の直営」という極端な噂へと昇華していったのが真相と言えます。