小説家にとどまらず、タレント、歌手、政治家、ボクサーとしてもメディアを騒がせた野坂昭如。彼の奔放な振る舞いは、当時の出版業界や文藝春秋の編集者たちを常に翻弄し、同時に魅了し続けた。
締め切りに追われて失踪を繰り広げる一方で、テレビの討論番組では酒を飲みながら権力へ牙をむく。大島渚監督との殴り合い事件に象徴されるような喧嘩早い性格の一方で、原稿に向かう姿勢は驚くほど繊細かつ潔癖だった。文壇の権威主義を徹底して嫌い、庶民の目線から権力の欺瞞を暴き続けた彼の生き様は、まさに「文豪」という言葉が持つ最後の輝きだった。編集者たちは彼の我が儘に悲鳴を上げつつも、上がってきた原稿のあまりの凄みと溢れ出る情念にひれ伏すほかなかったのである。