映画史に残る強烈な作画として語られる帝の顎だが、高畑勲監督が意図したのは単なるデフォルメの面白さではない。巨匠が目指したのは、平安時代の絵巻物や大和絵に見られる特有の遠近感と、人物の誇張表現を現代のアニメーション手法へと昇華させることだった。
帝という絶対的な権力者でありながら、自惚れと欲望に満ちた人物像を表現するにあたり、あの鋭角な顎の線形が極めて重要な役割を果たしている。作画スタッフの証言によれば、あえて崩したデッサンと流れるような線画を組み合わせることで、帝の持つ権威主義的な傲慢さと、どこか浮世離れした滑稽さを同時に描き出す狙いがあったという。完璧な美男子としてではなく、歪んだエゴを持つ一人の人間として帝を描く——それこそが高畑監督が込めた衝撃デザインの真実だった。