経産牛が「極上肉」へと昇華した最大の要因は、生産者による「再肥育(リフィニッシュ)」技術の劇的な進化にあります。
子牛の出産を終えた母牛に対し、すぐに屠畜せず、約6ヶ月から1年以上の期間をかけて特別な飼料を与えてじっくりと休養・肥育させるのが再肥育の工程です。この期間に、大豆粕やトウモロコシ、良質な牧草、さらにはビール粕や米ぬかなどの発酵飼料を与えることで、消耗していた筋肉に再び適度な脂が差し、細胞レベルで肉質が回復していきます。
特に経産牛の赤身肉の旨味が強い理由は、その生きた年月の長さにあります。未経産牛が2歳半前後で出荷されるのに対し、経産牛は7〜10年もの歳月を生きています。日々筋肉を動かしながら成熟した母牛の筋線維には、旨味成分であるグルタミン酸やイノシン酸といった遊離アミノ酸が凝縮されています。再肥育によってこの赤身組織に上質な脂が馴染むことで、噛むたびに深い出汁のようなコクが溢れ出る仕上がりとなるのです。
さらに、近年トレンドとなっている「ドライエイジング(乾燥熟成肉)」との相性が抜群であることも見逃せません。水分を適度に抜きながら酵素の力でタンパク質をアミノ酸へ分解する長期熟成を施すと、経産牛特有のしっかりした筋線維が驚くほど柔らかくなり、ナッツやチーズのような芳醇な熟成香を纏います。一流ステーキハウスが「経産黒毛和牛の熟成肉ステーキ」を看板メニューに据える理由は、まさにこの化学変化にあります。