SNSやネット掲示板を分析すると、「照明やテレビをつけたまま寝落ちしてしまった朝の絶望感」を吐露する投稿が数万件規模で確認できます。多くの生活者が「無駄遣いをしてしまった」という強い後悔に苛まれています。
しかし、認知心理学および行動経済学の視座からこの現象を解剖すると、人間は「コントロールを失った状態(寝落ち)で発生した損失」に対して、実際の被害規模以上の強いペナルティ感情を抱くバイアス(損失回避バイアスの一種)を持っています。
現実の損失額は、LED照明とテレビを8時間放置したとしても合計35円程度(自動販売機の缶飲料の3分の1以下)です。金銭的損失そのものは家計を揺るがすレベルでは到底ありません。
真に注目すべき実質的な損失は、電気代ではなく「睡眠の質の低下による人的資本のロス」です。厚生労働省の睡眠指針や生体リズム研究でも明らかなように、就寝中に強い光や音を浴び続けると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が著しく阻害され、浅いノンレム睡眠と中途覚醒が頻発します。翌日の集中力低下、仕事のパフォーマンス低下、免疫力低下による医療費リスクこそが、寝落ちがもたらす最大の「不可視のコスト」です。