物語の核をなす最凶の敵、死柄木吊。彼が体現していたのは、他者を頼ることが許されない過酷な無関心社会そのものだった。幼少期に個性を発現させた瞬間に起きた悲劇、そして誰も手を差し伸べなかった街角の沈黙。彼を救い上げたのがヒーローではなく、悪の権化であるオール・フォー・ワンであったという皮肉は、ヒーロー社会が抱える致命的な「死角」を残酷なまでに浮き彫りにした。
死柄木の破壊衝動は単なる我がままではない。「すべてを壊す」という地鳴りのような叫びの裏には、自分を視界から排除し続けた世界全体への悲痛な拒絶が隠されていた。主人公・緑谷出久(デク)が最終局面で見せた「倒すのではなく、救う」という葛藤は、従来の少年漫画における敵との決着を再定義する、極めて挑戦的なアプローチだったと言える。