570年頃、アラビア半島の商業都市メッカの名門クライシュ族に生まれたムハンマド。誕生前に父を亡くし、わずか6歳で母とも死別した彼は、祖父や叔父の手で育てられるという厳しい生い立ちを経験しました。社会的弱者の痛みを肌で知るこの原体験が、のちに弱者救済や平等を説く教えの確固たる土台となります。
青年期には叔父の商隊に同行してシリア方面へ赴くなど、商人としての才能を開花させました。嘘をつかず約束を違えない誠実な勤務態度から、人々から「アル・アミーン(信頼される者)」という最高の尊称で呼ばれていたと伝えられています。
25歳の頃、彼の人柄に深く感銘を受けた富裕な女性実業家ハディージャから求婚を受け、結婚します。ムハンマドにとって最初の妻となったハディージャは、15歳年上の頼もしい人生の伴侶であり、後に彼が宗教的な大試練に直面した際にも最大の理解者として寄り添い続けました。
残された数々のエピソードによると、ムハンマドは質素を愛し、衣服の繕いや靴の修理を自ら行い、子どもたちを見かければ笑顔で頭を撫でる極めて温和な人柄でした。猫を膝に乗せて可愛がり、猫が眠っている服の袖を切り落としてまで起こさないようにしたという逸話は、彼の慈悲深さを物語る象徴的なエピソードとして今も語り継がれています。