一見すると非合理的で矛盾に満ちたこの心理メカニズムだが、進化生物学の観点からは極めて重要な意味を持つと考えられている。もし親が赤ちゃんのあまりの可愛さに圧倒され、ただ見とれて固まってしまったらどうなるだろうか。迫りくる危険に対応できず、授乳や保護といった手厚いケアがおろそかになってしまうリスクがある。
無力な赤ちゃんを育てるためには、感情の泥酔状態から素早く立ち直り、現実的な行動を起こさなければならない。可愛さに正気を失いかける脳を、攻撃的な衝動でツッコミを入れて覚醒させる——それこそが、無防備な我が子を守り抜くために人類が獲得した適応戦略だったのだ。「愛しさのあまり抱きしめすぎてしまう」衝動は、命を育むための強烈な生存本能の裏返しでもある。